05.エッセイ

文房具を買いに(by 片岡義男)

Photo© 2010 角川書店

私が彼の小説を初めて読んだのは中学生のときで、今思い返してもかなり衝撃的な出会いでした。

それまでの私の読書経験といえば、赤川次郎をはじめ「マガーク探偵団」(*1)やシャーロック・ホームズといった推理もの、星新一、当時女の子に人気のあった薫くみこの「十二歳シリーズ」など、いわゆる子供でも読みやすいような物語がほとんどでした。

彼の作品のいくつかは映画にもなっていて「スローなブギにしてくれ」は主題歌も有名です。'60年代風のバラードで、ちょっと前(*2)にホンダのCMでも使われていました。
そして彼は翻訳家としても活躍していて、'60年代にはリチャード・スタークの「悪党パーカー」シリーズをいくつか翻訳しています。

彼の小説の中で舞台として多く登場する、すっきりとしたインテリアのマンションの一室や洒落た会話をする大人の男女が、当時の私にはとても都会的でかっこよく感じられて、おとなって素敵!と思ったものです。
キザとも言えるタイトルとシンプルな文章も私にはたまらなく魅力的で、角川文庫の背表紙が赤い色だった(作家によって色が違ったような記憶が…)こともよく覚えています。
 
中学生の頃のいちばんの思い出といえば、友人たち(*3)と毎日毎日映画や小説の話をしていたことです。あー、ほんとに楽しい毎日だったなー。
アメリカの映画を観るようになったのもその頃で、今まで知らなかったアメリカの生活や片岡義男の小説に出てくるおとなの世界にどきどきわくわくしていました。
彼は少年時代をハワイで過ごしたからか、物語の中にも頻繁に「アメリカらしい風景」が出てきます。
私立探偵アーロン・マッケルウェイが主人公の物語も、今思えばアメリカのミステリーが好きになった原点でした。
この短編集は高校生のとき、授業中に夢中になって読んだのをよく覚えています。なんで授業中ってあんなに集中して読めるんだろう?

昨年の4月から6月にかけて、ハヤカワ文庫から「片岡義男コレクション」として3冊の短編集がリリースされました。
 
1冊目の「花模様が怖いー謎と銃弾の短編ー」は副題どおりハードボイルド集。その中の1編「狙撃者がいる」は、彼独特のシンプルな文章とショッキングなストーリーの組み合わせが絶妙で、ほんとうに素晴らしいです!
 
2冊目の「さしむかいラブソングー彼女と別な彼の短編ー」は、タイトルにもあるように恋愛小説集。
「シャツのボタンが段違い」「人生は野菜スープ」などの題名は一見笑ってしまいますが、彼の小説を読んでみるとそれにも違和感は感じません。
 
そして3冊目の「ミス・リグビーの幸福ー蒼空と孤独の短編ー」はアーロン・マッケルウェイの短編集。
もうこれ最高!このストーリーのBGMにはちょっとカントリーっぽいジャズやブルースの曲がぴったりです。
 
彼はそういった小説の他にも、エッセイや音楽・日本語や英語に関する本も多く著しています。
また、最近は更新されていないようですが、「ペーパーバックの数が増えていく」というブログも書いています。
これを読んでみると、彼はペーパーバックを読むためではなくコレクションとして購入(同じ小説でも表紙が違うと購入、そしてなんとまったく同じ表紙でも購入!そりゃあ「増えていく」でしょうね)していて、写真を見ていると、置き場所大丈夫かしらー?と心配になってきます。
 
そんな彼は文房具を集めるのも好きなようで、この「文房具を買いに」でも大量のノートや消しゴムが登場します。置き場所大丈夫かしら?
 
文房具をたくさん買ってしまう気持ちというのはとてもよくわかります。
私自身、仕事はもちろんプライベートでもパソコンを使うことが多くなってきたので(*4)実際にノートや便箋・鉛筆などを使う機会は以前よりも減っていますが、それでも真新しいノートや書きやすいペンといったものには抗い難い魅力があります。LOFTなんか見ているだけでも楽しくて何時間いても飽きません。
ペンケースなんてほとんど使わないのに、革のもの・布のもの・プラスチックのもの問わず、かっこよかったりかわいかったりするのをお店で見かけるとつい欲しくなってしまいます。
そういえば小学生の頃、近所の小さい文房具やさんには用事がなくても頻繁に行っていました。今、用事がなくてもLOFTが入っているデパートなどに行くとつい寄ってしまうのと同じような感覚だったのかな。
 
この本の中には輸入ものの文房具がたくさん登場しますが、日本では輸入ものに限らずほんとにたくさんの種類の文房具が容易に手に入るので大変ありがたいです。
私がアメリカに留学していた時、ノートや消しゴムが欲しくて雑貨屋さんのようなところに行くと、驚くほど種類が少なくて空しくなったものです。
日本ではそんなに大きなお店でなくてもかわいいノートや消しゴムなんていろいろ置いてあるけれど、私がステイしていたところはとてもいなかだったので、スーパー兼雑貨屋さんのようなところで置いてある一種類を購入する以外選択肢はありませんでした。
 
この本の中に、様々な種類の消しゴムを撮っている写真があって、このページにはちょっと興奮しました。
私が大学生の頃は製図の授業は手描きだったのですが(今はCADなのかしら?)そのときに初めて使ったSTAEDTLER(*5)の消しゴムがとても使いやすく、今でもいちばんのお気に入りです。ちょっと硬めで、どの大きさのものもすっきりしていて非常に美しい。いちばん小さい60円ぐらいのもの(アメリカで購入したものは紙のケースがなく、それもまた魅力的でした)は特に愛おしいです。
もうひとつ、この写真の中で目立っているのがMILANの消しゴム。MILANのものは角がすべてRになっていてかわいらしい。写真にもある三角形の消しゴムは眺めているだけで楽しい気分になります。
 
彼は写真もご自身で撮られていて、その写真を撮ったときの様子(露出のことや画の構成のことなど)も説明してあります。
その中で、例えばこのノートを美しく写真に撮るためにはこれぐらいの量が必要だった、というようなことを言っています。だいたい同じノートを10冊ぐらいずつ。サイズが5種類あったら50冊です。ほんとに置き場所大丈夫かしら?
 
確かに、たくさん同じものや似たようなものが並んでいると写真を撮りたくなります。
 
私がアメリカで撮ってきた写真を後で見てみたら、スーパーマーケットや文房具やさんでジュースやクリスマスカードがたくさん並んでいる写真が多くありました。
フロリダだけあって、スーパーマーケットにはオレンジジュースが何十種類も置いてあり、お店が広いためその量も半端じゃない。そのときは、どうせ全部100%なんだからこんなに種類いらないよねぇ、と思っていましたが、日本に帰って来て大きいスーパーマーケットで何十種類のお味噌とお醤油が並んでいるのを見たときに、ああ、やっぱり必要だなあ、と彼らの気持ちが理解できました。きっと外人さんは、こんなに醤油の種類いらないよね、と思ってるはず。
 
この本の中には、手帳・メモパッド・鉛筆・ペン・消しゴム・封筒・電卓・ステイプラーなど身近な文房具がたくさん出てきます。
それらを語る筆者の文房具への愛情が伝わってきて、改めて、文房具って楽しいな、と思いました。
 
文房具が魅力的な限り、少なくとも我が家のペーパーレス化は難しく、片岡義男さんのご自宅にも文房具が増え続けることでしょう。

------------------------------

*1 このシリーズの裏表紙に描かれている歌は今でも覚えているぐらい印象的。
特に最後の「ダガジグダガジグ・ブンチャッチャ」。「ダガジグ」って楽しい響き。
 
*2 ちょっと前と思って調べたら、もう20年も前だった!ちょうどこの本を読んだ頃だったんだなー。

*3 仲良くしていた友人のひとりは村上春樹とロブ・ロウが好きで、もうひとりは島田雅彦とミッキー・ロークが好きでした。私は片岡義男とマシュー・ブロデリック。もう15年ぐらい会ってないけど、元気にしてるかなー?

*4 私はけっこう手書きが好きで、社会人になってからつい数ヶ月前まで10年以上、毎年お気に入りのノートを買ってきて家計簿をつけていましたが、さすがに計算するのがめんどうになってきました。
ちょっと前にパソコンを購入したのも半分は家計簿のため、と言っても過言ではない。

*5 STAEDTLERの三角形のペンは、とても持ちやすくて書きやすいです。シンプルなデザインも素敵!
 

|