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変身 (by フランツ・カフカ)

Photo_30© 1985 新潮社

私がこれを初めて読んだのはもうおとなになってからでしたが、とても有名な小説なので、読んだことがなくても「変身」という題名や「朝目覚めたら虫になっていた」というあらすじはもちろん知っていました。
そのショッキングな設定から、勝手におどろおどろしい小説なんだろうとイメージしていました。気持ち悪そうだから読まないでいいや、と思っていたのです。
それがどうして10年ほど前に読もうと思ったのかは覚えていませんが、これほど読んでみてイメージと違った小説はありません。
 
もうひとつ、「変身」ほどではないですが、小学生のときに読んだ宮沢賢治の「注文の多い料理店」もイメージしていたものとは違いました。
読む前から題名にはとても興味をひかれていて、「変身」とは逆におもしろそうだなぁと思っていました。星新一の本を読み始めた頃だったので、どんな展開なのか?どんな落ちがつくのか?と、勝手にイメージを膨らませていたのです。
そのため読み終わったときは、「なんだ、題名通りじゃん」という感想でした。まあ童話なので、落ちとか期待するなって話です。

本を読む前に過度の期待を持っているとがっかりしてしまうし、逆に悪いイメージを持っていると読むのを敬遠してしまってもったいないので、読む前に勝手にイメージを膨らませない方がいいとつくづく思います。
 
勝手なイメージと言えば、私は童顔で5~10歳ぐらい年下に見えてしまうため、たいていの人は実年齢を聞くと「えーっ?? そんなに歳なのー?」という反応をします。
これもイメージとの差があったためですが、こちらとしては、そもそも年相応に見えていればそこまで驚かれる年齢ではないので、非常に心外です。(まあ、実際は私も他の人に対してそういう反応をしてしまっていることあるんだろうなぁ…)
以前お寿司屋さんで話しかけてきたおじさんが私のことをずっと18歳ぐらいだと思って話していたらしく、25歳ということがわかった途端「だまされた!」ぐらいの勢いで去って行ったことがあります。あれはひどかった!
  
この小説で、なにがかわいそうかって(もちろん虫になってしまったこともかわいそうなのですが…)主人公がずっと「ああ、もう起きないと仕事に遅れちゃう」と思い続けていることです。
彼は目が覚めた時点ですでに遅刻の時間で、その後も刻々と時間が過ぎて焦っていく様子が、読んでいる側をも焦らせます。しかも彼はその仕事を好きでやっているわけではなく、両親の借金を払うためいやいや旅ばかりの営業職についているのです。
それでも健気に、もうすぐ元の状態に戻って仕事に行くことができるだろう、と思い続けているのです。
そして、こんな状況にありながらも彼は冷静にこの状況から抜け出そうと努力します。
 
登場人物はみんな多少混乱しているものの、物語はほとんど、虫になってしまってどんなに動きにくいか、また家族の気持ち・今後の生活のことなどを主人公が冷静に語る形で進んでいきます。
彼が自分のことを客観的にユーモアを交えて語っているその文章が私にはとても好ましく、この小説は非常にシュールでおもしろいコメディだと思っています。
ちょっと手伝ってくれれば簡単に動けるのに、とか、会社の上司の身にもこんなことが起きないとも限らない、とか、天井にへばりついているのが気持ちがいい、とか、彼のかわいそうな状況を知っていても、そのクールな語り口に思わずにやりとしてしまうシーンがたくさんあります。
 
主人公グレーゴルの妹は、冒頭から食べ物を運んだり部屋の掃除をしたり、両親が兄を避ける中ひとり甲斐甲斐しく世話をします。いい妹だなぁ。(結局最後にグレーゴルを見捨てるべきだと言いだすのも彼女なのだけど)
一方父親はグレーゴルにリンゴを投げつけ、結果的にはそれが原因で彼は死んでしまいます。
 
私はこの小説を読んで、兄がある日突然虫になってしまったときに落ち着いた対応ができるよう、日頃から家族で話し合っておくべきだと強く思いました。
まさに、ボーイスカウトのモットーでもある「そなえよつねに:Be Prepared」ということです。
備えるということで言えば、ついでに私を含めたすべての人は、実年齢を聞いた時に失礼にならないリアクションを考えておいた方がいいと思います。

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